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謎解き+推理小説『リアル脱出ゲームノベル Four Eyes~姿なき暗殺者からの脱出~』感想

こんばんは、夜中たわしです。

いやあ、久々にSCRAPの作品を読んだなあ。それもなかなかの変わり種。

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ということで感想です。ちなみにクリアは割と前にしていた。

概要

本作はベースが推理小説で、その中にリアル脱出ゲーム系の謎が散りばめてある、という作り。なおページ数は400ページと大ボリューム。

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SCRAPの書籍関連だとまず思い浮かぶのはゲームブック系の作品(ルネと不思議な箱など)だけど、それらとはかなり毛色が違う。まずベースとして普通に推理小説があり、その章ごとに大きめの謎解きが1つ含まれている。謎はメインとなる事件に直接関わってくることもあれば、登場人物が個人的に悩まされているトラブルであることも。

とまあ、章にもよるけど基本的にシナリオと謎が強く連携しているのが本作の目玉。さらに謎は解いていくにつれて"物語がひっくり返る"(キャッチコピーより)……というコンセプト。

この推理小説+謎解きという構造。これは結構相性が良く感じた。ただ本作は謎解きを優先しすぎてシナリオ展開が超強引という印象を受けたな……。そのためか、推理小説視点と謎解き視点のどちらで受け取るかにより印象が結構変わる。今回はその両方の視点から感想を書いてみよう。

謎解き視点

謎解き視点で見ると、本作は"謎解きのおまけに大ボリューム推理小説がついてくる"という感じか。そう考えるとおまけがあまりにも豪華で、そこそこ満足度が高い。

まずストーリーに絡んだ文章題タイプの謎が新鮮で単純に楽しい。基本、謎解きによって直接的に問題が解決してシナリオが進行するので「謎を解くことで話が進んでる」感が強く、満足感がある。


そうそう、謎としては気になる点が一つ。全編通して、謎解きの都合なのか奇跡的な偶然が起きまくる! ネタバレになるためフワッとした書き方になけど、「謎がなんと偶然! こんな感じに仕上がっていました~~(宝くじ高額当選レベルの奇跡)」という事象を何度も目の当たりにする。

主人公まで「こりゃ偶然ですな」的なことを言いだす始末。なるほど一応認識してるのか……偶然ね。偶然。と納得しそうになるが、やはり度を越している。実は偶然ではなく何か大いなる意志によって必然になるよう仕組まれていた……なんて感じの理由付けもない。ただただものすごい偶然により洗練された謎が続く。


と、途中違和感もあるが最後のいわゆる大謎にあたるものは強烈な仕上がり。小説形式でなければ表現が難しいであろう形式で、単純な謎解きでは味わえないタイプの謎になっている。本作ではここが一番の醍醐味だろうな。

推理小説視点

さて続いて推理小説視点で見た場合、こちらは"推理小説のおまけに謎解きがついてくる"という具合になる。シナリオとしては予想以上に普通の探偵小説に寄せてあり、キャッチコピー通りのどんでん返しもあって、個人的には楽しめた。

ただ気になる点もそれなりにあって、やはり謎解きの導入が一番の原因になっている……。

まず謎解き用の伏線というか情報開示のために、謎の核心を避けて不自然一歩手前の会話が繰り広げられることが多い(何故か年齢そのものを言わず年齢差ばかり話したがるなど)。また解説部分ではあまりにも説明口調になりすぎていることも。

とはいえ謎解きを小説化し、その解説までも小説内で完了させるにはある程度仕方ないかな、とは思う。こうならざるをえない。


次に、本作は作中の大部分を"探偵が書いた手記"が占めるんだけど、「いつこんな懇切丁寧に描写する時間があったんだ??」というほどにクオリティが高い。

事件があったその日に、当日の状況から会話の細部まで詳細に小説形式でまとめ、さらにその日のうちに次なる事件に巻き込まれたりしている。後日まとめて書くような余裕もなさそうなので、どうやら人並み外れた速筆なのだ。しかも手書き……!!

またこの大ボリューム手記を作中の人物も読むのだが、この速度も爆速である。切羽詰まってる中でこの数百ページある手記を読者同様に全部読み、すべての謎を解いてしまっている。こちらもめちゃくちゃ優秀に違いない(執筆した探偵のほうが遥かに人間離れしているが)。


一方でここは良くできてるな~、と思ったのが、先述もした最後の大謎。これ普通の謎解きの枠を越えていて、本格的な「読者への挑戦」と言っていい。少々イレギュラーな形式ではあるけど。

「読者への挑戦」ってそう考えると謎解きと同じなんだよな。それまでの情報を整理して犯人なり何なりを推理するんだから。ここにおいては推理小説とリアル脱出ゲームは相性抜群、と言えるかもしれない。こんなにも自然と読者を挑戦する気にさせるのは類を見ないのでは。

難易度

最後に全体的な難易度について。なんとなくだけど、謎解きとしても推理小説としてもやや初心者よりの印象だった。

というのも、途中から章ごとの謎解きの答えが容易に想像できるようになってしまって。謎の種類は違えど、根幹となる思想がワンパターンなので、あ~、きっと答えはこういう流れなんだろうなー……と予想がついてしまう。

とはいえ、終盤の謎から最後の大謎にかけてはパターンから外れて歯ごたえが出てくる。が、私の場合偶然にも同系統のネタを使った推理小説に覚えがあったので、かなり早い段階で真相に気づいてしまった。これは有名作品なんで同じルートをたどる人もそこそこいると思う。

これらにより、私の場合「頼むから予想外れてくれーーーー!!」と思いながら読むことになった(予想は当たっていた)。

ということで本作、謎解き・推理小説ともに一定以上の経験があると退屈になる恐れあり。初心者向けかと思ったのはそのためです。はい。反面、知識なしから本作の結末を自力で導いたなら、めちゃ気持ちいいと思う。

おわりに

推理小説と謎解きの融合により歪みが出ている部分があるものの、コンセプト自体は成功していて細かい点さえ気にしなければ十分楽しめる。SCRAPの作品なんで、謎解き側に重きを置いてるのは正解だろうし。

かなり作るの大変だろうけど、このシリーズの次回作が出たら当然買うぞ。このフォーマットのポテンシャルはかなり高く感じたんで、本作の経験を踏まえて作るならぜひ読みたい。

次はこれを遊ぶぞ……。

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