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3人で読む推理小説『スカイホープ最後の飛行』感想

こんばんは。夜中たわしです。

革新的な推理小説が誕生しました。なんと3人で読むタイプの推理小説です。

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こちら、リアル脱出ゲームなどを運営しているSCRAPから先日出版されました。

こんな変わったものが出たら、私は買います。

遊び方

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3章×3人分で、計9冊の本が入っています。

1冊あたりは10ページ程度で、さくっと読めます。ちょっと物足りないくらい。

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また推理用の紙も付属しています。


さてメインの登場人物は以下の3名です。

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  • トーマス(捜査官):大泥棒を追っている
  • ニコラス(管制官):妻が息子を連れて逃げた
  • ベル(マジシャン):世界的マジシャンになるため空港に来た

ニコラスの境遇が悲哀に満ちていて辛いですが、この3人の中から好きなキャラクターを選んで、担当となる本を決めましょう。

1章ごとに別々の本を読むことになりますが、当然ながらプレイヤーによって得られる情報が断片的なため、話し合いによる情報交換が必要となります。ここがこの推理小説の肝。

それぞれが本を読んだ後は、専用Webサイトにアクセスして設問に回答していく形式になります。

なおSCRAPの商品ですが推理小説なので、脱出ゲーム的な謎解き要素は薄いです。『ルネと不思議な箱』のような今までに出ている脱出ゲームブックとは別物と思ったほうがいいです。

非常に面白い試み

私は嫁と2人で遊んだので、やむを得ず私がトーマスとニコラスの2人分を担当しました。

3人目の候補は隣の部屋の住人(ほぼ会ったことない)しかいなかったので、さすがに断念です。

最後まで遊んでみて思いましたが、これはぜひとも3人(もしくは3人以上)で遊ぶべきです。「1人でじっくり楽しむこともできます」と帯に書かれていますが、1人だと本来の半分も楽しめないことでしょう。

というのもこの推理小説の魅力のほとんどは、コミュニケーションにあるためです。

推理を進めるにあたって、他2人から何の情報を引き出せばいいか、あるいは何の情報を与える必要があるか? これらを考え、ふとしたことがきっかけで点と点が繋がる瞬間。これが何より気持ちいい!

あるプレイヤーにとっては「この情報は話には関係ないだろう」と思って他2人に言わなかった情報が実は重要だった、なんてことが往々にして起ります。

もし1人で遊んだならば、勘がよければ「ああ、アレのことね」と、終始そんな感じで終わってしまいそうです。

3人で遊んだときのもどかしさ、そして意思疎通がうまくいったことの爽快感! それが一番の醍醐味です。

なおプレイ時間は3時間程度でした。おそらく3人だともう少し時間を要することと思います。

ストーリー

ストーリーは飛行機のハイジャックもの。

展開の途中でアッと驚く仕掛けがあり、そこは非常に素晴らしかったんですが全体的には単調で、特にラストがなんというか……ぱっとしない結末でした。

「3人で読む推理小説」という試みと途中の仕掛けに重きを置いたのかと思います。

仕組み自体はとても挑戦的で、私は好きです。ストーリーよりも、推理する体験自体を楽しむものと捉えました。

登場人物になれる?

本の帯にはこう書かれていました。

「あなたもミステリーの登場人物になれる」

これを見ててっきり私は、登場人物になりきってロールプレイ的なことをするのかと思ったんですが、違いました。登場人物にはなれません。

というのも、読者は本に書かれていることしか知り得ないためです。いや、それ自体は構わないんですよ。当たり前ですし。

気になったのは、推理するにあたって公式Webサイトで出題される内容です。

たとえば「ベルはある人物とどこで出会ったか」といった感じの出題があります。

いやいや、そんなのベルなら知ってるでしょう。と思ってベル担当のプレイヤーに聞いても、わかりません。なぜなら、ベルの本に書かれていないからです。

ベルの本に書かれているのは出会っている描写のみで、それがどこなのかは不明だったりします。

出会った相手の特徴などを他の人に伝え、「こっちにもその人登場したわ。○○って名前やで」「ほう。○○ならその時間は××にいた、という情報があるよ」

という感じで答えを探っていくことになります。これがこの推理小説でコミュニケーション能力を求められる最も面白いところなんですが……

でも、でもベル本人なら、相談とか必要なく答えられるはずですよね??

じゃあこの、本を読んでる「わたし」はベルじゃないじゃん。「わたし」は一体誰? 誰なの??

となり、ほどなくして「まあ、そういうもんか」と自分を納得させることになります。

そもそも彼ら、劇中で話し合ったりしないですし。しかも飛行機に乗ってるのは2人で、1人は空港にいるし。

とりあえず登場人物になりきって推理するゲームではなくて、神様視点というか、それぞれのキャラの背後霊的な存在による推理合戦です。

これはこれで楽しめるんでいいんですが、「登場人物になれる」ってのはやはりどこか違うと感じました。

おわりに

会社のグループワークや、学校でのコミュニケーション教育なんかに使えそうに思いました。試みは本当に面白いです。

ただメンバーによってはうまく話が進まず、ケンカに発展しそうにも思います。

私はそれを傍から眺めて楽しむ……という趣味の悪いことをやってみたいです。

よろしくお願いします。

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