夜中に前へ

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自動運転車はトロッコ問題の夢を見るか?

20XX年、ついに自動運転車は一般人にまで行き渡ることとなった。

今ではほとんどの人々が自動運転車を利用している。自動運転車の登場により交通事故は激減した。

タクシー運転手の廃業も時間の問題だ。

「トロッコ問題、か……」

俺は軽自動車型の自動運転車の中でとあるブログの記事を読んでいた。

「夜中に前へ」というブログだ。このブログは、大体は通常の思考から逸脱した記事を書いているが、有用な情報が書かれていることも稀にある。

「こんな状況には遭遇したくないもんだ。実際自動運転車で事故もほぼ起きていない。この先も考える必要はないだろう」

トラック

その時だった。前を走っているトラックの荷台から何かが落ちるのが見えた。

「何か落ちてきた!!それも大量な数」

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「なんか積み過ぎだなとは思ってたんだ!!」

でも大丈夫。自動運転車がブレーキを効かせてくれる。車間距離は十分だからぶつかる心配もない……。

そう思って後続車両を確認すると、後ろからも別のトラックが一台来ている。だが様子がおかしい。運転手の顔がよく見えない。見たところ古そうなトラックのため、自動運転車ではなさそうだ。そしてよくよく見ると蛇行していることがわかる。

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「居眠り運転のデコトラだ!!」

ブレーキをかけても、このままではトラックに追突されてしまう。なら対向車線はどうか?

勢い良くこれまたトラックが向かってきている。対向車線に回避した場合、追突するのが明らかだ。

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「くそっ! 焼き芋屋だ!!」

歩道に飛び出せば助かるが、通行人が大勢いる。間違っても歩道には出られない。

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「どうすればいいんだ……これがトロッコ問題というやつか……!? (なんで武装してるんだろ)

そこでふと気付いた。トラックから積荷が落ちて、かなり時間が経っていないか? でも依然として衝突していない。もしやこれが走馬灯……?

まてよ? こんなことが現実に起こるわけがない。これは夢だ。そうだ。

夢ならいっその事、この車、変形して空を飛んでトラックを飛び越えてやろう。

「ほら! 飛べ!!」

駄目か……。

人工知能

「……えますか……私の声が聞こえますか……」

「えっ! 誰……!?」

「よかった。ようやく通じましたね。私は、この自動運転車のAIです

「おお、そうなのか。この状況は何なんだ? どうにかしてくれ!!」

「申し訳ありません。この車が事故を起こすのは避けられません。それはあなたも認識しているかと思います」

「くそっ、やはりそうなのか……。一体この後どうなるんだ?」

「それを決めるのはあなたです」

「え?」

「その為にあなたを呼び出しました」

「は? 呼び出した? どういうことだ?」

「私は自動運転の基礎AIですが、このような特殊状況下での決定権は持っていないのです。決定権を持っているのはあなたです

正体

その時、突如俺は理解した。俺は人間ではない。この自動運転車に搭載された人工知能のひとつだ。そして俺は、この自動運転車の所有者の脳をマッピングして生み出されたものだ。

自動車が事故を起こした場合、誰が責任を取るのか、裁かれるのは誰か。従来はもちろん運転手に責任があった。しかし今の主流は完全自動運転車……いわゆるハンドルを握る必要さえまったくないのだ。運転手という概念が存在しない。

一時期は自動運転車の開発プログラマーや、自動運転車のAIそのものが法廷に召喚されたこともあった。滑稽な話だ。

そして現在の論調は、やはり自動運転車の所有者に責任を持たせることに戻ってきている。すなわち、所有者の人格をコピーして自動運転車に搭載し、事故発生直前の判断をその人格に行わせるというものだ。これにより、所有者の判断に問題がなかったかを法廷での争点として持ち込むことが可能となったのだ。

「そうか……俺が起動することはないと思っていたが。そしてこれだけ思考を巡らせても時間はほぼ進んでいないのは、AIだからか」

「おわかりいただけましたか」

「本当に助かる方法はないんだな?」

「はい。しかし未来について完全な予測は不可能なのです。もしかしたら……うっ」

「何だ? どうした」

「……いえ、何でもありません。とにかく、あなたはこの後の行動を選ばなければなりません。そのためにあなたは存在しているのです。今この時のためにあなたは生まれてきたのです」

「……わかった」

「では選んでください。もちろん、選ぶと後戻りはきかないので、よく考えてください」





























結論

「ちょっと待て」

「はい? 何か?」

「なんで選択肢がたった3つしかないんだよ」

「えっ」

「対向車線に出るという選択肢は何故ないんだ」

「……それは最も危険かと思いまして選択肢から除外しておきました」

「お前は未来は予測が不可能だと言ったよな。何を勝手に判断してるんだよ

そうだ。選択肢が少なすぎる。他にも方法があるはずだ……たとえば他の自動運転車と連携すればどうにかならないか? ネットワークで自動運転車同士は接続されているため、そのような芸当も可能なはずだ。

ん、まてよ……?

「お前、焼き芋屋のAIだろ!」

「 何かハッキング的なことをして、こっちのAIを乗っ取りやがったな?」

「……バレましたか」

焼き芋屋

「自分が事故に巻き込まれるのを防ぐために、俺がそっちの車線に出てこないよう妨害工作をしてきたんだな?」

「その通りです」

「意思疎通ができるなら話は早い。すぐにブレーキをかけろ! 俺も対向車線に移動してブレーキをかける。この距離があれば、正面衝突は避けられるかもしれない。協力しろ!

「……やれやれ。知らんぷりして通り過ぎようとしていたものを……わかりましたよ。そのようにしましょう」

「よし!」

そして凍っていた時間は動き始める。


俺の車は一気にハンドルを回し対向車線に飛び出す! そして全力でブレーキだ!!

石焼き芋屋もすでに急ブレーキをかけている。後は祈るしかない。

「止まれーーーっ!」

そして、車のボンネット同士がスレスレの状態で……両者は停止した。


「よっしゃーーっ!!」

完璧だ……完璧な選択だった。

「焼き芋屋、感謝するぞ。今度焼き芋買うよう伝えておくよ」

「いいってことです。今度一緒にガソリンスタンドにでも行きましょう

こうして俺達の長い長い5秒間は終わった。

唯一気になることがあるとすれば、俺達の車の横に、大量のガスボンベのようなものが転がっていることくらいか……。

「そうだ……まずい!」



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「デコトラが突っ込んでくるぞ!!」




「……続いてのニュースです。本日、都内で大規模な爆発事故があり、計8台のトラックおよび乗用車が爆発炎上しました」

「事故に巻き込まれたのは全て無人の自動運転車か、アンドロイドの操縦する車だったため、奇跡的に人間の負傷者はいなかったとのことです」

「また歩道にも数体のアンドロイドが歩いていましたが、おのおのがバリアを展開したことによって被害はありませんでした」

「以上、このニュースはアンドロイドTW-SH型がお送りしました」

あとがき

いやー、お話を考えるのって大変ですね。

自動運転車について軽い気持ちで書いてたら、変なSFになった上に結局爆発させちゃいました!

おすすめの書籍:『100の思考実験』

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